~気候危機がもたらす臨床の変化と、リハビリテーション専門職の新たな役割~

2025年11月20日(木)、環境理学療法協会(Environmental Physiotherapy Association: EPA)が主催する「EPA regions roundtables in Japan」がオンラインにて開催されました。本イベントは、EPAが世界各地で同日に開催するグローバルイベントの一環であり、日本国内のみならず海外在住の理学療法士も含め、16名が集まりました。

開催の背景と基調講演

 

冒頭、主催者である橋本氏による趣旨説明に続き、共同主催者の千葉氏より「環境・プラネタリーヘルスと理学療法」をテーマとした基調講演が行われました。

講演では、人間の健康が地球環境の健康(プラネタリーヘルス)の上に成り立っているという視点から、理学療法士が環境問題にどのように関与すべきかについて、包括的な解説がなされました 。

座談会

テーマ①「あなたが関わる臨床現場」において、どのような「環境の影響(課題や変化)」を認識していますか?

講演後、参加者はグループに分かれ、「臨床現場で認識している環境の影響」についてディスカッションを行いました。各地域から報告された課題は、気候変動がすでに臨床活動の大きな障壁となっている現実を浮き彫りにしました。

 

1. 災害とインフラの寸断

気象災害がリハビリテーションの提供体制そのものを揺るがしている実態が多数報告されました。

  • 豪雨・水害: 宮城県仙台市では豪雨による道路冠水で訪問リハビリが実施不能となった事例や、長野県における台風被害で河川が氾濫し、通所リハビリの送迎が困難になったケースが報告されました。また、静岡県などでは線状降水帯により職員自身が被災するリスクも指摘されています 。

     

  • 獣害による影響: 宮城県など一部の地域では、環境変化の影響か、熊の出没により訪問ルートの迂回を余儀なくされるという、地域特有の深刻な課題も挙がりました。

     

 

2. 猛暑と健康格差

「暑さ」がもたらす健康被害と活動制限については、都市部を中心に多くの意見が集中しました 。

  • 高齢者のリスク: 東京都江戸川区や名古屋市などでは、猛暑による救急搬送の増加に加え、エアコンの不使用や操作困難が課題として挙げられました 。ケアプランに「屋外歩行」を位置づけても、危険な暑さのため実施できず、身体機能の低下を招く悪循環が起きています 8

     

  • 子どもへの影響: 熱中症警戒アラートの頻発により外遊びが制限され、運動発達への影響や、日光不足による「くる病」のリスクなども懸念されています 。

     

海外の事例: 米国オレゴン州からの参加者より山火事による大気汚染の影響が報告されたほか、発展途上国における安全な水や冷却設備の不足といった、より過酷な環境課題も共有されました。

座談会テーマ②
環境の影響(課題や変化)を解決・改善に繋げるために、あなたがリハビリテーション専門職として必要な具体的だと思う「知識や情報」は何ですか?

続いて、「解決・改善のために専門職として必要な知識やアクション」について議論が深められました。

■ 臨床実践の適応と工夫

  • 活動機会の確保: 気候条件を見極めた運動指導や、子ども向けの屋内遊び場の整備など、環境の変化に適応した活動の場の創出が提案されました。

  • 代替手段の活用: 物理的な移動が困難な状況における「遠隔リハビリテーション」の導入が有力な選択肢として挙げられました。

  • アセスメント能力の向上: 高齢者の体調不良が、単なる加齢によるものか、熱中症や脱水、あるいは低血糖によるものかを、環境要因を踏まえて鑑別する視点の重要性が強調されました。

■ 社会的なアプローチ

  • 教育と啓発: 環境が人体に与える生理学的なメカニズムを理解し、患者や住民に分かりやすく説明するスキルの必要性が確認されました。
  • 災害支援: 避難所における生活不活発病の予防や、平時からの住民参加型防災訓練など、災害時およびその備えにおける理学療法士の役割再考が提唱されました。

今後の展望

本座談会を通じて、気候変動はもはや「将来の課題」ではなく、「今日の臨床」に直結する危機であることが再確認されました。

終了後には、継続的な情報交換を行うためのコミュニティ(Discord)への参加が進むなど、環境理学療法に対する参加者の熱量の高さが伺えました。理学療法士は、個人の健康だけでなく、地球環境の保全(プラネタリーヘルス)にも寄与する専門職として、新たな一歩を踏み出しています。